パラレルコンプレッションについてのあれこれ

パラレル・コンプレッション(parallel compression)は、コンプのかかった音(Wet)とかかっていない原音(Dry)を混ぜるコンプレッションの方法です。

そのメリットを簡潔に言うと、適度なアタック感とダイナミクスを残した、自然なコンプレッションができるといったところでしょうか。

さて、そんなパラレルコンプレッションですが、「ニューヨークコンプレッション」とか「モータウンコンプレッション」という別名で呼ばれているということを知りまして。

でも、ここで疑問が生まれたんです。

同じアメリカとはいえ、デトロイト(モータウン)とニューヨークじゃ違うんじゃないか?

これが思った以上に違うもので、しかもけっこうややこしい問題でした。

まず、いろいろ調べてわかったのは、パラレル・コンプレッションという手法は最初に述べたような、DryとWetの成分を混ぜるコンプレッションの方法の総称ということです。

これを最初に始めたと言われているのがモータウンです。

1970年前後に、ヴォーカルのコンプレッションの手段として、ローレンス・ホーン(Lawrence Horn)というエンジニアが使い始めたようです。

というのも、当時モータウンのリズムセクションが以前よりもパワフルになってきていて、ヴォーカルをよりはっきり聞こえさせるためには新たな手法が必要でした。

そこで開発されたのがこのモータウン・コンプレッション

問題はこれがパラレル・コンプレッションとどう違うのか、という話ですが、それはイコライジングなんです。

「え、コンプレッションの話なのになんでイコライジング?」と思うかもしれませんが、モータウンで行われていたコンプレッションは、このイコライジングとセットの概念のようなのです。

もう少し詳しく説明しましょう。

まず、リードヴォーカルを2つのバストラックに送ります。

1つは、EQとリバーブをインサートしたものへ、そしてもう1つは深くかけたコンプと高音域をたっぷりブーストしたEQをインサートしたトラックへ送ります。

この後者のバス・トラックと、原音のヴォーカル・トラックをミックスしたものこそが、モータウン・コンプレッションと呼ばれているものです。

つまり、圧縮+EQ(プレゼンスのブースト)ということです。

もう一つ、ニューヨーク・コンプレッションというのもありましたね。

これももちろん、パラレル・コンプレッションの一種です(ちょっと頭おかしくなりそう)。

ただ、これは1990年代前半から中盤にかけて、アメリカで新しいサウンドを生み出したニューヨーク出身のエンジニアたち(トニー・マセラティあたりですかね)によって始められたものと言われていて、モータウンのものよりもだいぶ後になってからのことです。

大きく違うと思われるのは、ニューヨーク・コンプレッションは主にリズム・セクションにかけるということ。

モータウンのほうはヴォーカルでしたからね。

ちなみに、ニューヨーク・コンプレッションのほうも、やはりイコライジングと一体になっていると考えるのが一般的なようです。

たとえばドラムの場合、バスに送ってそこでコンプをかけるというところには大きく変わりはありませんが、こちらはその後ローシェルフとハイシェルフをブーストするというところが違います。

EQとセットで使うというところは同じですが、いじる帯域が違うということですね。まあ、楽器が違うので当然と言えば当然ですが(笑)。

というわけで、それぞれに若干の違いがあるということがわかりました。

重要なのは、パラレル・コンプレッションというのはイコライジング抜きの概念ということですね。

ニューヨークもモータウンもコンプ+EQでセットでしたから。

いやーまぎらわしい。

正直、知らないことばかりでした。

おそらく、これらの流れがぐちゃぐちゃになって、それぞれの言葉が一人歩きした結果、何がどう違うのかというのがはっきりしなくなってしまったのではないでしょうか。

とはいえ、僕もまだ間違った理解をしている部分があるかもしれませんので、その場合はご指摘いただければ幸いです。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。